【360KYUSU】新発売!デザイン開発に込められた思い
2023年4月1日、東京・自由が丘駅からほど近い「nanaha jiyugaoka」内に、「nana's green tea 自由が丘店」がグランドオープンしました。これを機に、店内で日本茶を淹れる茶器としてデビューしたのが、nana's green teaオリジナルの茶器「360KYUSU」です。本体に高透明度・高耐久度のトライタン樹脂を使用し、360 度、好きなところから茶を注げるという斬新な急須で、全国の店舗でも使用されています。
この新たな挑戦について、「株式会社 七葉」代表取締役の朽網一人(くたみ かずと)と、「360KYUSU」のデザインを担当した「Product Design Center」鈴木啓太(すずき けいた)氏、「nana's green tea」のブランディングを手掛ける「エイトブランディングデザイン」西澤明洋(にしざわ あきひろ)氏の、3名による対談形式で紹介します。
(以下、敬称略)
【急須で本物のお茶を淹れる文化をよりカジュアルに】
西澤:
今日はよろしくお願いいたします。ではまず、「360KYUSU」がどのように生まれたのかの経緯を話していただきたいと思います。
朽網:
もともと、この急須を作ろうと思ったのは、日本でお茶の消費量が少なくなっている一方で、海外では緑茶や抹茶のブームが大きくなってきている。日本国内でも、ペットポトルのお茶だけでなく、家やお店でリーフで淹れてお茶を飲むということを、もっと身近に感じてもらいたい、やってもらいたい。どうやったら急須を使ってお茶を淹れてもらえるのかな?と考えていたところからでした。
そこで、西澤君に、国内でも海外でも通用する画期的な面白い急須は無いだろうか?作りたいんだよねというのを相談したのが始まりです。
西澤:
僕は「nana's green tea」のブランディングに携わって18年目になります。朽網さんと二人三脚するようになってもう20年くらいでしょうか。
「nana's green tea」のブランディングデザインは、「新しい日本のカタチ」というコンセプトのもと、元々、「お茶」という日本の大事なコンテンツを、“本物のお茶”を、カジュアルな形で一般の方に広げていきたい、と朽網さんが進められてきたものです。それをデザインという立場でどういうふうに世の中に伝えていくかをお手伝いしています。
今回の急須のお話は、「新しい日本のカタチ」をしっかり表現する最後のチャンスだと思っています。僕は、お茶の仕事を他でもやっているので、近年、お茶の消費量の下がり方、若い人が家で急須でお茶を飲まなくなっているという事実を見聞きしています。うちのスタッフですら、若い子たちは「家に急須が無い」と言ったりするくらいなので、これに一石投じられるようなものがいいですね、と話をしていました。
デザインをやっていく中で、急須のデザインをできる人は、世の中に沢山いると思いますけれど、“新しいカタチ”をちゃんと再発明できるのは誰か?と考えた時に、たまたまご縁で知り合って、お仕事もよく存じ上げている。もう鈴木さんしかいないな、と。
鈴木さんは、どちらかというとシンプルに削いでいく中に、ちゃんと新しい機能美を見出す、という凄腕のデザイナーです。鈴木さんにチームに加わってもらい、プロジェクトが始まったという流れです。
では、鈴木さんから、初めにプロジェクトの内容を聞いた時に、どんな感じでアプローチしていこうと思ったのか伺いましょう。
鈴木:
最初に考えたのは「コーヒー」の普及についてでした。世の中で多くの人がコーヒーを飲み、淹れて楽しんでいるのは、多様な道具が存在するからだと思います。この考えを元に、お茶ももっと多くの人に楽しんでほしいと感じた際、利用できる急須の選択肢が限られていることに気づきました。
急須は数百年の歴史の中で、大きく形や姿を変えていません。構造は基本的に変わっておらず、多くの急須は似た形状をしています。この機会に新しい急須をデザインする際、最新の製造技術や素材を活用し、新たなアプローチでのデザインを目指しました。
朽網さんと西澤さんからは、海外の方々や急須の使い方に馴染みのない人々もお茶を楽しむための新しい道具の制作の要望が寄せられました。これに答える形で、全く新しい急須のデザインに挑戦することになりました。
西澤:
最初に、「トライタン樹脂」を選択したのはどういうところからですか?
鈴木:
いくつかの理由から、私たちは特定の素材を選びました。まず最初の理由は、店舗での使用や多くの人々に使ってもらうことを考慮し、プロダクトが「安全」でなければならないと考えたからです。「トライタン」という新しいプラスチック素材は、割れにくいという特性を持っています。この特性により、製品が安全に長期間使えると判断しました。
2つめの理由は、お茶の抽出過程とその色合いの美しさにあります。お茶の色は本当に魅力的ですが、伝統的なセラミックの急須ではその美しさを直接目で楽しむことができません。透明な急須を使用することで、茶葉が抽出される様子を視覚的に楽しむことが可能になります。
朽網:
そもそも、古典的な陶器の急須の「中が見えない」とか「割れて欠けたりする」「熱くなる」といったことを、新しい素材で再発明、再解釈していこうというのが、「トライタン樹脂」を採用した一番の理由ですね。
鈴木:
そうですね。以前この素材を使ってデザインした経験があります。その経験から、この急須にはこの素材が最も適していると、初めから感じていました。
西澤:
そうでしたか。鈴木さんにとっては、結構よく使う素材のひとつだったんですね。
僕らは、そういうオリエンテーションを差し上げてから、1回目の提案を心待ちにしていた訳なんですが・・。
鈴木:
めちゃくちゃ緊張しましたよ(笑)。
西澤:
しょっぱなから、大盛り上がりでしたね。今回の「360KYUSU」で、一番特徴的なのは、このフタだと。このフタに、溝を360°切っているところ。本当に、なぜ誰も思いつかなかったんだろう?と。これを見ると、フタをして淹れるだけなんですね。
茶漉しが無くなったというのがすごいことだと思うんです。このアイディアって、どのように、どのタイミングで思いついたんですか?
朽網:
元のアイディアの精度が高すぎて、これはもうあと微調整で行けちゃうね、というレベルに来ていました。
西澤:
容量とかフォルムとか、茶葉の落ち具合とか、それぐらいの調整で。
朽網:
欠点が見つからない。欠点、何かあるかな?無いよね。パーフェクトな、すごいのが出てきちゃったね、と初めて見た時に思いましたね。
鈴木:
水は細い線でも流れますが、茶葉はある程度の大きさが必要です。この点から、「茶葉をせき止めて水だけを流す蓋をデザインする」というシンプルなアイディアに至りました。蓋の側面と底面に360°のスリットを設けることでこれを実現しようと考えました。
ただ、このアイディアを実現する過程は容易ではなく、今日、模型もお見せしていますが、初めの試作段階では茶葉がお茶と一緒に流れ出てしまうこともありました。また、製品としての実現可能性を考慮し、素材の厚みやその他の製造条件も検討しつつ、試作を重ねました。最終的な製品は、茶葉とお茶が完全に分離することができる新しい蓋になりました。アイディア自体はシンプルだったものの、その実現には多くの試行錯誤が必要でした。
【機能性と美しさを備えた「新しいカタチ」の秘密】
西澤:
では、1回淹れてもらいましょう。どういうふうに淹れるのか、使うのかというのをデモしてもらいたいと思います。
朽網:
これ、「オールインワン」というのもコンセプトのひとつなんです。オールインワンで持ち運びも出来るというのも、大きな利点なんですね。
西澤:
携帯性もあって収納性もいいですよね。
朽網:
フタが量りになるというのもいいんだよね。
鈴木:
はい。この、フタの内側の段差のあたりまで茶葉を入れると、ちょうど4gくらいです。
朽網:
茶葉が開いてくるのを見てるっていうのがいいよね。
西澤:
蒸らしたり、ちょっと揺すったりできる、ゆったりした空間がいいんでしょうね。
鈴木:
そうですね。実際に、フィルターが無く空間が広いことで、茶葉もよく開きますし、いい所が沢山あります。
西澤:
急須って、丸くてふんわりした形をしているけれど、結局、茶漉しがあると、茶葉が対流しないんですよね。
朽網:
そうなんです。対流せずに、漬かっているだけなんですよね。こっちの方が、角度が本当にちょうどよくて、今みたいに軽く揺すっただけでぐっと対流するので、完全に急須の機能性として理にかなっている。
さらに、本当に360°なので、ちょっとここに多少の目詰まりがあるかなと思っても、角度を変えればまたスーッと出てきて注げる。
西澤:
普通の急須は目詰まりしますものね。どこからでも出てくるから。完璧ですよ。
こうして改めて見ると、今まであった古典的な穴あき急須とか茶漉し急須の欠点が全部無くなって、ひとつに集約された感じです。
朽網:
片手で淹れられるしね。
西澤:
僕、家でこれを使っているんだけれど、めちゃくちゃいいなと思うのは、洗うのが簡単!
急須って、スポンジとか中に入れて洗うのがすごく大変で、茶渋とかどんどん出てくるし。網に目詰まりしていくとか、そういうのが全く無い。水ですすぐくらいで全部綺麗になっちゃう。
僕は、この簡便性ってとても大事だと思っていて、本物のお茶をちゃんと美味しく飲むというのはすごく大事ですが、今の方たち、特に日本の人の若い人たちというのは、簡単であるとか手間がないというのも重要なことで、そういう道具の進化があると、もう1回、本物の素材と向き合ってみようかなと思っていただけると思います。
それにやはり、海外の方ですよね。急須で淹れる文化が無かった人に、手間なく楽しんでいただくとか、淹れれば中が見えるというのも、とても大事。お茶が抽出できたタイミングとかも、“見たらわかるでしょ”という感じで。
朽網:
これは、日本茶だけでなく、中国茶とか紅茶とかも、どれだけ開いているかがわかる。あらゆるリーフに対応できるのもすごい。
西澤:
このコップの方にも、ディテールのこだわりが?
鈴木:
確かに、見た目は普通のコップのようですが、独自の工夫が施されていて、持ち手部分は熱くならないよう設計されていて、口元は特に繊細に仕上げられています。磁器の茶碗のように先端を薄くすることで、口当たりを滑らかにしました。繊細な味わいと快適な飲み口を実現しています。
西澤:
まさしく、これは「新しい日本のカタチ」だと思います。
お茶というものを、本来の美味しさとか本質を損なわずに、全く新しいカタチにアップデートしている。
せっかくなので、さっきお持ちいただいた試作品の裏話なども、もう少し伺えたらと。
鈴木:
試作の数は数知れずです(笑)。最初の段階では、密着を確保するためにフタに段差を設けていましたが、洗いやすさやデザインの美しさを重視すると、それが最適ではないことがわかりました。そこで、もっと洗練されたシンプルなデザインへの変更を追求しました。
このプロトタイプ群は、シリコンの硬さを調整するなど、製造工程での微調整を重ねたものです。これは、密着性と使用時の快適さのバランスを取るためにメーカーと共同で行われた試行錯誤の結果です。
西澤:
ボディの部分は、初期からほぼ変わっていないんですか?
鈴木:
はい、実は最初のデザインから大きくは変わっていません。人の手のサイズや容量を考慮し、手に持ったときの感触や熱さを検証することで、自然とこのサイズに落ち着きました。
朽網:
これ、僕は会社でも、カップとしてそのまま飲んじゃう。口にちょうどよく当たるので、アイスコーヒーとかのドリンクカップとしてもいいんです。使い方を何となく考えながら、サイズ感もちょうどよくて。
鈴木:
「360KYUSU」は一人用として便利なだけでなく、360度どこからでも注げる特徴があるので相手と向かい合いながらも簡単にお茶を注ぐことができるので、お茶を中心としたコミュニケーションを楽しむことができます。
西澤:
あー、でもそれこそ、お茶の本質ですよね。お客様を招いて一服する、というね。
鈴木:
この急須が、誰とでも楽しい時を過ごせるお茶文化の発展に貢献できると考えています。
西澤:
それにしても、今って、デザインの世界も、3Dプリンタの導入で、だいぶ作り方が変わってきましたよね。
朽網:
開発時間が、思っていたより短かったですね。もっとかかるかなと思ったら、結構、パンパンパーンと進みました。
鈴木:
短時間でさまざまなパターンの検証が可能になりました。さらに、最終的な工場生産に近い条件でのテストが行えるため、より質の高い製品を効率的に作り上げることができるようになったと感じています。
西澤:
お茶は特に、見た目じゃなくて、ちゃんと淹れられるかどうかが重要なので、それがリアルな状態で検証できたことで、開発の成果が早く出ていましたね。
【今後の展望について】
西澤:
海外や、お店で使ってみての使い勝手とか、お客様の反響はどうですか?
朽網:
皆さんから、めちゃくちゃ「欲しい」と(笑)。「どこで売ってるの?」とお客様からも聞かれたりしているそうです。
海外では、まだ実際には使っていないんですが、持っていって見せたパートナーたちからも、素晴らしい!これは売れる!と評判がいいですね。
西澤:
もともと開発の与件の中に、まず、店でちゃんと使えるような、業務用としてお客様の前に出せるものというのがありました。食洗器で手軽に洗ってしまえるとか、壊れにくいとか、業務用としても充分機能していますか?
朽網:
業務用としてはパーフェクトですよ。まず、壊れない。ガラスと違って、細かい金属製のものでこすったら、もちろん傷はつくんですけれど、それ以外、普通の生活や業務使用の中でもそこだけ気を付ければずっと使える。
割れない、見える、美味しく出るというのは、業務用としても、欠点が本当にない。業務用としてこれだけ耐久力と機能性があれば、家庭用だったらさらに、ということになりますね。
それが家庭でも使っていただけるようになる。
西澤:
一日に何度も使えますよね。
朽網:
これは中が見えて面白いので、つい使いたくなっちゃう。なんかやりたくなっちゃう、というのも面白いですよね。
西澤:
うちでも、子供たちがお茶を飲む回数が増えましたね。これだと、やっぱり簡単なんですよ。
今後、お店で発売するにあたって、どんどん使っていただきたいですね。
朽網:
コーヒーのように、お茶を淹れるのが楽しくなる道具としては、「再発明」ですね。
今回は、煎茶の茶葉、リーフを使う急須ですが、お茶にはもうひとつ、“抹茶”という大きな砦もありますね。
これについてもやりますよ(笑)。開発、これから乞うご期待というところで。
「360KYUSU」で、お茶をもっと多くの方に飲んでいただきたい、世界に広がってほしいです。
西澤:
朽網さん、鈴木さん、今日はありがとうございました。この「360KYUSU」をベースとした、今後の開発も楽しみですね。
「nana's green tea」の店舗スタッフたちからも注目度大の「360KYUSU」の誕生ストーリー、いかがでしたでしょうか?
皆さまにも、おうちで気軽に使っていただいて、お茶を淹れたり、誰かと一緒に飲んだりする時間を楽しんでいただけたら、何よりもうれしいです。
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プロフィール
朽網一人(くたみ かずと)氏(写真中央)
「株式会社 七葉」代表取締役 1971年神奈川県生まれ
26歳で会社員を辞め、国内外で遊学。29歳の時、「新しい日本のカタチ」をコンセプトとして、2001年3月、東京・自由が丘に「nana's green tea」1号店を出店。現在はフランチャイズチェーンで国内73店舗、海外5か国8店舗に展開(※2023年9月時点)。抹茶をはじめとした、日本が有する食文化・食材、茶の湯の文化、その精神などの伝統を大切にしつつ、その魅力を現代の生活の中で身近に楽しめる提案を行っている。
鈴木啓太(すずき けいた)氏(写真右)
プロダクトデザイナー、クリエイティブ・ディレクター。デザインオフィス「PRODUCT DESIGN CENTER」代表 1982年愛知県生まれ
古美術収集家の祖父の影響で、幼少より人が織りなす文化や歴史に興味を持つ。美術館収蔵の日用品から鉄道車両などの公共プロジェクト、また伝統工芸や素材開発まで幅広い分野で活躍。美意識と機能性を融合させ、100年後にも残るような意味のあるデザインを目指し、国内外の企業やブランド、公共事業者とプロジェクトを手掛ける。『グッドデザイン賞』審査委員や東京藝術大学の講師なども務める。
西澤明洋(にしざわ あきひろ)氏(写真左)
ブランディングデザイナー、「株式会社エイトブランディングデザイン」代表 1976年滋賀県生まれ
「ブランディングデザインで日本を元気にする」というコンセプトのもと、企業のブランド開発、商品開発、店舗開発など幅広いジャンルでのデザイン活動を行っている。「フォーカスRPCD®」という独自のデザイン開発手法により、リサーチからプランニング、コンセプト開発まで含めた、一貫性のあるブランディングデザインを数多く手がけ、グッドデザイン賞をはじめ、国内外100以上の賞を受賞。
nana's green tea(ナナズグリーンティー)自由が丘店
■ 住所 東京都目黒区自由が丘1-14-16 Nanaha Bldg. 1F
■ 営業日時 11:00 ~ 21:00
■ 電話番号 03-6421-2066
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